公開日:2019.10.02 | 最終更新日:2024.09.24
相次ぐ高齢者による交通事故…免許を自主返納させるためには
警視庁による調査で、75歳以上の高齢ドライバーによる交通事故は、75歳未満と比較して、免許人口10万人あたりの件数が2倍以上多く発生していることがわかっています。
実際に、高齢者による交通事故が報道されるたびに、胸を痛め、高齢の親や親戚などに免許を返納してほしいと願う方も多いのではないでしょうか。
ただ、免許を保有している高齢の方のなかには、身内に返納を促されても、返納を拒む人も少なくありません。
なぜ高齢の方が免許を返納したがらないのか、自主的に免許を返納させるにはどうすればいいのか、万が一、親族である高齢者が事故を起こした、または事故に遭った場合の対処法についてご紹介します。
1、高齢者による交通事故の実態
高齢者による交通事故は高齢者の人口増加に伴い、年々増え続けています。
ニュースでもそのような報道を頻繁に耳にするようになりました。
(1)世間を騒がせた高齢者による交通事故のニュース
高齢ドライバーによる交通事故のニュースは、ここ数年で頻繁に報道されるようになりました。
特に記憶に新しいところでは、平成31年4月に東京・池袋で起きた当時87歳の高齢ドライバーによる事故ではないでしょうか。
この事故によって31歳と2歳の尊い命が失われました。加害者は脚を悪くしていて、運転をやめるよう医師から指摘されていたにもかかわらず、運転を続けていたといいます。
何の罪もない親子が、高齢ドライバーの暴走により突然命を奪われたことで、大々的に報道され、世間から批判の声が相次ぎました。
交通事故の被害者になるのは、赤の他人に限ったことではありません。自宅や公共施設などの駐車場でもアクセルとブレーキを踏み間違える事故は起きています。
例えば、病院の敷地内で夫が運転する車に妻がはねられて死亡したケース、帰省していた孫を自宅の駐車場ではねて死亡したケースなどが挙げられます。
加害者は自身の運転操作の誤りが原因で大切な家族の失ったのですから、その後悔や苦悩は想像を絶するものではないでしょうか。
(2)高齢者の免許保有者数の実態
交通事故総合分析センターの調査によると、平成28年現在の65歳以上の四輪免許保有者数は170万6300人、そのうち75歳以上は513万人にのぼります。
高齢化社会が進む日本においては、今後もさらに高齢ドライバーの増加と、それに伴い高齢ドライバーによる交通事故も増えると予測されています。
ところが、警察庁の発表では平成28年に運転免許を自主返納した75歳以上は29.3万人で、全体のわずか5%ほどしかありません。高齢ドライバーが増加する一方で、免許の自主返納はなかなか進まない現状が浮き彫りになっています。
(3)シルバーマークと過失割合について
道路交通法では、75歳以上の高齢ドライバーに対し、車両にシルバーマークを付けることが求められえています。とはいえ、シルバーマークの表示は必ずつけなければならないのではなく、あくまで努力義務にとどまります。表示していなくても法的には問題ありません。
また、シルバーマークを付けている車両に対して、他の車両が幅寄せや進路変更、割り込みをしてはいけないと規定されています。
このときに起きた交通事故では、シルバーマークを付けている車に対して禁止行為を行ったとして、加害者側の過失割合が高くなることもあります。
しかし、原則として高齢者だからといって交通事故を起こしたときの過失割合が修正されることはありません。
なぜなら加齢により運転能力が低下していることを主張したところで、それなら免許返納をするべきだったと反論されるからです。加齢による運転能力の低下は法律上、言い訳にはならないということです。
2、高齢者本人の言い分
高齢者による交通事故のニュースが流れるたび、免許の返納を意識する方もいらっしゃるでしょう。返納したくないという高齢者の言い分として次のような例が考えられます。
(1)車がないと移動に不便
特に、公共交通機関が発達していない地方では、車がなければどこにも行けないという方は少なくありません。バス停までが遠かったり、バスの本数が1時間に数本だったり、タクシー代だけで数千円かかるような区域なら、バスよりも時間にとらわれず、タクシーより安く済ませられる車の方が利便性ははるかに高いです。
そのような便利な生活から、バスやタクシーなどの交通手段に頼る不便な生活を強いられるのは苦痛に感じるために、免許の返納をためらう方もいます。
(2)車がないと買い物などの荷物運びに不便
スーパーなどで食料品や日用品を買って持ち帰るとき、車ならトランクに入れたり、後部座席に荷物を置いたりして自宅前まで運ぶことができます。しかし、車がなければ電車やバスでの移動のときに重たいものを持ち歩かなければなりません。
身体機能に衰えが出てきている高齢者にとって、長時間重いものを持ち続けるのは限界があります。車なら、荷物運びをする時間はわずか数分程度におさえられます。重い荷物を運ばなくてもいいので、高齢者の体力的な負担が少ないと言えます。
(3)ゴルフや旅行で車を使いたい
ゴルフや旅行などで車を利用している方は、車がなくなったらゴルフや旅行に行くのも大変と感じるかもしれません。また、車に乗って出かけること自体が家族や友人との交流の機会になるという方もいます。
こういう方は車がなければ交流の機会が閉ざされ、楽しみがなくなってしまうと感じることもあるようです。
(4)車自体が財産または運転自体が好きで手放したくない
車自体は、決して安い買い物ではありません。数百万円から、なかには数千万円するものまであり、所有していることに満足感を得ている可能性もあります。
そのため、免許を返納して車が必要なくなり、いずれ手放さなければならないことを考えると、返納はできないと考えるのかもしれません。
また、車の運転自体が好きな方にとっても、免許の返納は楽しみを奪われることにもなります。大好きな運転ができなくなることが考えられないというかたもいらっしゃるでしょう。
(5)根拠なくまだまだ大丈夫と言い張る
家族から「運転はもうやめた方がいい」と指摘されても「自分はそんな事故を起こしたりしない」と言い張り、免許を返納しない方もいます。若いころから日常的かつ継続的に運転したり、活動的に過ごしたりする人にこうした傾向が見られます。
しかし、80代の男性で免許更新の検査で異常が見つからず、ゴールドの免許証で事故を起こしたことなど一度もなかったにもかかわらず、アクセルとブレーキを踏み間違えて事故を起こしたケースもあります。
たとえ運転に自信があっても、加齢とともに運転技術は確実に衰えていますから、免許を返納してもらいたいのが家族の本音ではないでしょうか。
3、高齢者の免許返納のために家族ができること
高齢者による交通事故が報道されるたびに、高齢ドライバーやその家族も免許の返納を意識することでしょう。その都度「免許を返納したら?」と勧めても、おそらく素直に返納する高齢者は少ないのではないでしょうか。
返納するように説得するには、頑固にさせず、代替案を提案することで車がなくても問題ないことを理解してもらう必要があります。
(1)話し合って本人に納得してもらう
免許の返納について、本人と真剣に話し合う機会をつくりましょう。「判断能力の低下」、「反射能力の低下」、「視界・視力の低下」といった身体能力の低下は、加齢とともに確実に起きているので、まずは本人がそうした現実を受け入れなければなりません。
視界・視力の低下によって道路標識を見誤ったり、反射能力の低下によって瞬時に正しい判断ができず、運転を誤ったりすることもあるのです。
最近では、高齢者でも見た目が若く、年齢を感じさせない方も多く見受けられますが、身体機能の衰えは目に見えないところで確実に起きています。
車は大変便利な乗り物ですが、ひとたび運転操作を誤ると命を奪う凶器にもなります。そして、高齢ドライバーによる交通事故は決して他人事ではなく、誰にでも起こりうることを本人に伝えなければなりません。
(2)運転適性相談窓口に相談する
東京都を管轄する警視庁では、運転に不安がある方の相談窓口が設けられています。
高齢の方だけでなく、持病を持つ方や視力や聴力などの運転に必要な身体能力に不安のある方も対象となっています。
府中運転免許試験場 | 042-365-5656 |
鮫洲運転免許試験場 | 03-3474-1374 |
江東運転免許試験場 | 03-3699-1151 |
受付日時は平日のみ(祝日、休日、年末年始を除く)で、時間は午後8時30分から午後5時15分まであります。相談内容によっては、2時間ほどかかることもあるので、事前に電話で相談の上、余裕をもっていくと良いでしょう。
千葉県警察でも、運転適性相談窓口を設けています。臨時検査は適性相談室の連絡先は以下の通りです。
千葉運転免許センター 流山運転免許センター |
043-274-2000(共通) |
なお、臨時の適性検査は無料で受けられます。
詳しくは運転免許センターにお問い合わせください。
(3)車に安全装置を付ける
高齢者のアクセルとブレーキの踏み間違えによる事故が相次いでいるのを受けて、踏み間違えを防止する安全装置が自動車用品専門店などで販売されています。
ほとんどの踏み間違え防止装置は、急発進を感知してブザー音とともにブレーキがかかる仕組みになっています。メーカーにもよりますが、工事費用を含めて数万円程度で取り付けが可能です。
高齢者だけでなく、免許を取りたての若者が購入するケースもあるようです。アクセルとブレーキの踏み間違いによる事故は、高齢者に限らず、どの世代のドライバーにも起きています。
こうした装置を利用して、事故を未然に防ぐことも検討しましょう。
(4)車を手放した後は三輪自転車の利用の検討を
車がなくなったので、自由に移動ができる自転車に挑戦する方もいます。自転車なら、車ほどではない者の歩行よりも早く移動でき、バスよりも時間に縛られることなく利用できるのが大きなメリットです。
しかし、身体機能が低下している高齢者の方が自転車に乗るのは転倒などのリスクがあります。ヘルメットや保護具をつけて細心の注意を払って自転車に乗ることもできますが、日常的に杖を使用している方だと、長時間ペダルをこぎ続ける動作が難しいのが現実です。
自転車をこぐのに不安のある方は、公共交通機関を利用するなどの他の移動手段を探してみると良いでしょう。
なお、自転車をしっかり漕げる方は、ペダルを軽く踏むだけでスムーズに動く高齢者向けの三輪自転車の利用を検討してみてはいかがでしょうか。重心が低ければ重い荷物を載せてもバランスを崩しにくく、二輪車より転倒のリスクが低くなります。
(5)家族が親を連れて外出する機会を増やす
筑波大学の研究によると、免許返納によって要介護になるリスクが通常の2倍になることがわかっています。しかし、公共交通機関や自転車を利用して外出している高齢者の場合は1.6倍になったそうです。
運転できた頃より外出のハードルが高くなり、家にこもりがちになることからこのようなデータが出てきた可能性が考えられます。要介護状態を防ぐためには、免許返納後も活発な生活ができるよう、周りの支援が不可欠です。
免許を返納したら、積極的に家族が本人を誘って一緒に外出してみましょう。そして、本人に代わって、子や孫など、もっと若い世代の人に運転を任せてみるのです。同じ車に乗ることで交流の機会になりますし、家にこもっているよりも活動的に過ごせるはずです。
(6)車の維持と公共交通機関の利用、どちらが安く済むか試算してみる
車自体の購入費用から、購入後にガソリン代、税金、保険、車検代、駐車場代など車にかかるお金は意外と多いものです。
車を手放せば車にかかる維持費や税金はゼロ円になります。バスやタクシーでの移動には確かにお金がかかりますが、どれくらいお金がかかるか計算して、本人に説明してみましょう。
タクシーやバスを利用した方が車を持ち続けているより安くなるケースもあります。
4、万が一、事故を起こしてしまったらすぐに弁護士に相談を
不幸にも事故を起こしてしまったときは、警察への通報や保険会社への連絡と、できるだけ早い段階で交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
(1)親が交通事故の加害者になった場合
親が交通事故を起こし、加害者になったときは、交通事故に関するトラブルを解決してきた新小岩法律事務所にご相談ください。当事務所の弁護士が、警察への対応、被害者へのお見舞いなど、ご家族の困りごとや精神的な負担をご相談いただければ、適切な対応をさせていただきます。
(2)親が交通事故を起こし本人も死亡してしまった場合
親が交通事故を起こして本人も死亡した場合、まずは警察への対応、保険会社との交渉、財産の相続など、法的に対処しなければならいことが数多くあります。
それらをすべて遺族の方が処理するのは非常に大きな負担となるものです。
当事務所の弁護士は交通事故にも相続にも詳しい弁護士が在籍しているので、本人が交通事故で死亡した場合でも、示談交渉の代行、遺産分割協議などについてご相談を受け付けています。
(3)親が交通事故の被害者になった場合は
親が交通事故の被害者になった場合も、警察への対応、保険会社との交渉、死亡した場合に相続など、法的な手続きをしなければなりません。
交通事故で被害を受けた時は、速やかに弁護士にご相談ください。