公開日:2025.06.25
財産分与の割合が2分の1以外になるケースと損をしないためのポイント

財産分与の割合は、原則として夫婦それぞれが2分の1ずつです。財産の名義や、財産を形成したのが、夫婦のうちどちらか一方の収入が主だったとしても、基本的な割合は変わりません。
これが、いわゆる「2分の1ルール」と言われるもので、結婚生活の中で築いた財産は夫婦が互いに協力し合い形成されたものであるという考え方が背景にあります。
しかし、財産分与では、すべてのケースで割合が2分の1になるとは限りません。財産分与で不利な立場に立たないためにも、どのような場合に割合が変わるのか、そして有利に進めるためのポイントを事前に確認しておきましょう。
Contents
1.財産分与における割合の決め方
財産分与の割合は、基本的には夫婦間の話し合いで決定します。民法では、財産分与について「当事者間の協議」で定めるとされており、話し合いによる解決が基本原則となっています。
夫婦間の話し合いでも合意に至らない場合は、次の段階として家庭裁判所での調停や裁判によって解決をすることになります。
いずれの方法においても、財産分与の割合は2分の1を基本としますが、夫婦の合意があれば割合を変更することも可能です。また、一定の条件下では、夫婦の合意がなくても裁判所の判断によって割合が変更されるケースもあります。
(1)双方の合意があれば割合は変えられる
財産分与の割合は、双方の合意があれば割合は自由に変えられます。民法第768条には財産分与について定められていますが、具体的な割合までは明記されていないためです。
そのため、早く離婚をしたいという場合には、財産分与の割合を交渉材料として、早期の離婚を実現するということもありえます。極端なケースでいえば、一方の財産分与の割合をゼロにすることも可能です。
ただし、財産分与で一方が受け取る金額が「社会通念上相当と認められる範囲」を超えて多すぎる場合、税務署から「財産分与」ではなく「贈与」とみなされる可能性があります。その場合、受け取った側に贈与税が課税されることがあります。
(2)合意なしでも財産分与割合が変わるケース
財産分与について、夫婦間で合意が得られなければ、調停や裁判で解決することになります。
2分の1ルールは、長年の裁判例や実務の積み重ねによって形成された原則です。夫婦間で話し合いが合意に至らない場合、裁判所が財産分与の割合を決定する際にこのルールが適用されることが多くなっています。
しかし、例外的なケースもあり、2分の1の原則から異なる配分になることがあります。
■専門職の資格や能力により形成した財産
医師や弁護士、スポーツ選手などの特別な能力により高収入を得ている場合、財産分与で例外が認められることがあります。婚姻前から個人的な努力で培った能力を活かし、結婚後もその特殊な才能や労力によって多額の財産が形成された場合です。
例えば、大阪高裁の判例(大阪高裁平成26年3月13日判決)では、医師の夫と専業主婦の妻の離婚で、通常の「2分の1ルール」ではなく、夫6割・妻4割という配分が認められました。
ただし、配偶者が家事育児だけでなく仕事も手伝っていた場合など、両性の本質的平等の観点から、大きな割合の変更は認められないことが多くなっています。
■経営者としての特別な能力
夫婦の一方が会社経営者の場合も、財産分与の割合が調整されることがあります。
会社の業績が経営者本人の特別な経営センスや決断力、人脈などの個人的能力に大きく依存している場合、「会社の価値=経営者の能力」と評価されるためです。
例えば、配偶者の協力がなくても会社が成長したと認められるような状況では、会社経営で得た財産の分与割合が本人に有利に調整されることもあります。
ただし、配偶者が会社経営を手伝っていた場合や、家事・育児に専念することで経営に集中できる環境を整えていた場合は、その貢献も評価されます。
■裁判所の個別判断
裁判所は、2分の1ルールを原則としながらも、個々の事情を考慮して財産分与の割合を調整することがあります。
例えば、一方の配偶者が家事や育児に特に大きく貢献し、もう一方がそれを怠っていた場合には、家事・育児に貢献した側の割合が増えることがあります。
また、浪費やギャンブルなどで家族の財産を著しく減らした配偶者がいる場合、その影響を考慮して財産分与の割合が変更されることもあります。
裁判所は、婚姻期間の長さ、年齢、健康状態、職業能力など、様々な要素を総合的に判断して、最終的な分与割合を決定します。このように、財産分与は単純な数式ではなく、夫婦それぞれの状況や貢献度に応じた公平な解決を目指します。
■財産分与の対象となる財産
財産分与の対象となる財産は、一見してわかりやすいものから、意外と見落としがちなものまで幅広く存在します。
夫婦の共有財産として認識されやすいのは、以下の財産です。
- 現金や預貯金
- マンションや一戸建てなどの不動産
- 株式や投資信託などの有価証券
- 高価な家財道具
上記は把握しやすい資産であり、財産分与の対象となることは比較的理解しやすいでしょう。一方、財産分与の対象となる財産には、見落としがちな資産も含まれます。
例えば、配偶者の将来の退職金も、婚姻期間分については財産分与の対象となります。退職金は現時点では手元にない将来の資産ですが、婚姻期間中の労働の対価として後払いされる性質を持つため、財産分与の対象として認められています。
他にも、生命保険の解約返戻金、株式のストックオプション、知的財産権(著作権や特許など)、会社経営者の場合の事業価値や会社株式なども対象となる可能性があります。
さらに、クレジットカードのポイントや航空会社のマイレージ、暗号資産(仮想通貨)などの新しい形態の資産も、価値によっては財産分与の対象となるケースが出てきています。
このように、財産分与の対象は多岐にわたり、一部はその存在や価値の評価が難しいものも含まれます。離婚時に公平な財産分与を実現するためには、財産を適切に把握し、評価することが重要です。
(3)結婚期間中に築いた資産が対象になる
財産分与の対象となるのは、原則として結婚期間中に夫婦が築いた資産です。
婚姻期間中の資産形成は夫婦が共同で行ったものであり、名義や収入源に関わらず、その財産は夫婦両方のものとみなされるという考え方が基本とされているためです。
婚姻期間の定義については、通常は婚姻届の提出日から離婚成立日までが基準となります。
ただし、長期間の別居がある場合には、実質的な婚姻関係が終了した時点が考慮されることもあります。このような場合、別居開始時点以降に形成された資産については、個別の判断が必要です。
2.財産分与の対象外となる財産
財産分与の対象外となる財産は、主に結婚期間外に取得したものや、個人的に贈与・相続されたものが該当します。これらが対象外となる理由は、婚姻共同生活における協力や貢献によって形成された財産ではなく、一方の配偶者が個人的に取得した財産と考えられるためです。
財産分与の対象外となる財産は、法律上「特有財産」と呼ばれています。
特有財産については、原則として財産分与の対象とはなりませんが、特有財産であることを主張する側がその事実を証明する必要があります。
例えば、結婚前からの資産であることや、贈与・相続によって取得したことを示す証拠書類(銀行取引明細書、贈与契約書、遺産分割協議書など)が重要になります。
もし特有財産であることを十分に証明できない場合は、その財産は夫婦の共有財産とみなされ、財産分与の対象になる可能性が高くなります。
(1)特有財産は合意があれば財産分与ができる
特有財産は原則として財産分与の対象外ですが、夫婦間で合意があれば財産分与の対象とすることが可能です。民法上、財産分与は当事者間の協議によって定めることができるとされており、何を分与の対象とするかについても、基本的には当事者の自由な合意に委ねられています。
例えば、一方が婚姻前から所有していた不動産や、親から相続した財産についても、離婚時の話し合いで合意すれば、財産分与の対象に含められます。
特に円満な別れを希望する場合や、一方が経済的に困窮している場合などには、こうした合意がなされることもあります。
ただし、特有財産を財産分与の対象にする合意が、脅迫や強迫など不当な圧力によってなされた場合、その合意は無効となる可能性があります。
このような場合は、証拠を残しておき、弁護士に相談することが重要です。
(2)負債は原則として財産分与の対象にならない
財産分与は、その名称が示すとおり「財産」を分けることが目的であるため、負債は原則として財産分与の対象外です。
財産分与制度は夫婦が協力して形成した資産を公平に分配するものであり、借金などの負債を分け合うことを想定した制度ではないためです。
個人的な趣味、浪費やギャンブルなどによる借金や債務なども、財産分与の対象に含まれないため、「財産を分与するなら負債も一緒に引き受けるべき」という主張は基本的に認められません。
ただし、両者の合意があれば、財産分与の取り決めの中で負債の処理について独自の取り決めをすることは可能です。このような合意をする場合は、後のトラブルを避けるために、書面できちんと内容を残しておくことが重要です。
3.財産分与の割合で損をしないためのポイント
離婚時に有利な条件で財産分与の割合を実現するためには、以下のようなポイントに注意することが重要です。
- 財産を正確に把握する
- 財産形成への貢献度を詳細に記録する
- 2分の1ルールの例外事由を明確に立証する
上記の実施には、証拠の収集や記録の整理などが必要となり、想像以上に時間を要する場合があります。そのため、少しでも早い段階で準備を始めることをおすすめします。
(1)財産を正確に把握する
財産分与で有利な条件を得るためには、まずは自身と配偶者の財産を正確に把握し、財産の総額だけでなく、その内訳について詳しく調べることが重要です。
正確な財産把握のためには、通帳やカード利用明細、不動産登記簿、株式取引記録など、できるだけ多くの証拠書類を収集します。
ただし、配偶者が財産を隠している場合は、個人で探すことが難しい場合があります。
そこで、有効なのが弁護士会照会や裁判所の調査嘱託です。
弁護士会照会とは、弁護士法第23条の2に基づき、弁護士が所属する弁護士会を通じて公的機関や金融機関などに対して必要な情報の開示を求める制度です。これにより、本人が直接入手困難な銀行口座や資産に関する情報を合法的に取得できます。
また裁判所の調査嘱託は、民事訴訟法第186条に基づき、裁判所が当事者の申立てにより公的機関や企業などに対して必要な調査を依頼する制度です。不動産登記情報や勤務先の給与情報など、離婚調停や裁判に必要な証拠を収集することが可能になります。
特に、相手が自営業者や会社経営者の場合は、個人資産と事業資産の区別が曖昧になりがちで、財産の把握が難しくなります。このような場合こそ、専門家の力を借りて徹底的な調査を行うことが大切です。
(2)財産形成への貢献度を詳細に記録する
財産分与の割合を有利にするためには、財産形成への貢献度を詳細に記録しておくことも必要です。家事や育児を一方のみが行っている場合には、財産分与割合を調整した裁判例もあります。
このような場合には、具体的な家事、育児の内容や時間を日頃から記録しておくことが有効です。家事や育児の貢献度を示す具体的な記録としては、以下のようなものが考えられます。
- 日々の家事(調理、掃除、洗濯など)にかけた時間
- 子どもの送迎や学校行事への参加状況
- 介護や看病などの家族ケアの内容
- 家計管理や節約への取り組み
- 配偶者の仕事や事業を支援した実績
もちろん、離婚前から意図的に準備するのはなかなか難しいものです。実用的な方法としては、日記やカレンダー、スマートフォンのメモ機能などを活用して、自然な形で日常生活の記録を残しておくことも有効です。過去の写真や家族イベントの記録も、家族への貢献を示す証拠になり得ます。
なお、記録は一貫性を持って行うことが重要です。断片的な記録よりも、ある程度の期間にわたる継続的な記録の方が、貢献度を示す証拠として説得力を持ちます。
(3)2分の1ルールの例外事由を明確に立証する
財産分与において有利な割合を実現するためには、2分の1ルールの例外事由を明確に立証することも大切です。
特に、配偶者のギャンブルや過度の浪費によって夫婦の共有財産が著しく減少した場合、その事実を具体的に証明できれば財産分与の割合を調整する根拠になります。
高額な買い物の履歴、不審な現金引き出しの記録などの証拠があると、例外事由として認められることがあります。
このように、財産分与の割合に影響を与える例外事由については、日頃から証拠を収集し、適切に記録しておくことが、有利な財産分与を実現するために重要です。
4.財産分与を有利に進めるなら弁護士法人HALにご相談ください
財産分与を有利に進めるためには、事前の準備と正確な情報収集が何よりも重要です。
しかし、実際は、離婚問題に直面して初めて財産分与の複雑さに気づき、適切な準備ができないまま交渉に臨んでしまうケースも少なくありません。
さらに、夫婦間での財産分与の話し合いは感情的になりがちで、冷静な判断ができないことも多くあります。相手の言い分に流されたり、感情的な対立から本来得られるはずの財産を諦めてしまったりすることもあります。そんなときこそ、弁護士へご相談ください。
弁護士に相談することで、法的な専門知識に基づいた的確なアドバイスを受けられるだけでなく、感情的になりがちな財産分与の話し合いについて、冷静な第三者の視点あることで、有利に進めやすくなります。
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